JPiere会計管理ドキュメント

 JPiere/iDempiereは、取引のデータを”伝票(Document)”を使って管理するシステムです。主な伝票は20種類程度あり、取引の状況や、取引に付随する色々な業務を管理する事ができるようになっています。そして、各伝票の”伝票ステータス”を”完成”にすると、自動的に仕訳が起票されるようになっています。

 

 例えば、売上データと言える”売上請求伝票”を”完成”にすると、次のような仕訳が起票されます。 

 各伝票より自動的に起票された仕訳(以下、自動仕訳)は、”総勘定元帳”と言える、データベーステーブルに格納(“転記”)されます。

 自動仕訳は伝票を”完成”にすると同時に起票され、総勘定元帳に転記されます。日々の取引データはリアルタイムに総勘定元帳に転記されてきますので、あとは”振替伝票”を使用して”決算整理仕訳”を入力すれば、最終的な貸借対照表、損益計算書までJPiere/iDempiereで作成する事ができます。

iDempiereの会計管理機能の特徴

複数の会計基準への対応(複数の会計帳簿)

 海外(特に米国)では、それぞれの会計基準に応じた会計帳簿を作成し業務を行っています。米国では財務会計用の会計帳簿と税務会計用の会計帳簿、管理会計用の会計帳簿の3つを使い分けています。そのような会計管理に対応できるようにiDempiereでは複数の会計帳簿を作成する事ができるようになっています。日本では通常、1つの会計帳簿を使用して財務会計も税務会計も管理会計も業務を行っているので、この機能を活用するケースはあまりないように思われがちですが、今後IFRSが適用となる企業グループにおいては、国内用の会計帳簿とIFRS用の会計帳簿と2つの会計帳簿が必要になるため、活用するケースも出てくるでしょう。

ユーザー向けのレポート作成ツール(会計レポート)

 iDempiereには、仕訳のデータをもとに財務部・経理部のパワーユーザーが簡単にレポートを作成する事ができる「会計レポート(Financial Reports)」という機能があります。レポートを作成できる対象のデータが仕訳データのみという制約がありますが、経理部のパワーユーザーであれば、1~2時間程度の研修時間で、”貸借対照表”や”損益計算書”、多次元分析のキューブ(Cube)を活用した管理会計レポート(多次元分析レポート)を作成できるようになります。

柔軟な消費税対応

  iDempiereの消費税等の標準機能は、とても多機能で、世界中にある消費税に類似した税金を処理できるようになっています。しかしながら、税金の話であり、国によって細かな違いはありますし、これからも改正される事もあるでしょう。そのためiDempiereでは、iDempiereが消費税等を処理する基本的な機能を提供しつつも、独自の処理をプラグインとして組み込めるようになっています。

 充実している標準機能と、独自のロジックを組み込めるアーキテクチャによりiDempiereは世界中の消費税等の処理が行えるようになっています。

◆柔軟な消費税の処理機能例

  • 品目別消費税率設定(軽減税率対応)
  • 明細単位での消費税計算と伝票単位での消費税計算の選択適用
  • 地域別消費税率設定
  • 税率改正対応(日付毎の税率適用)
  • 税込(内税)価格と税抜(外税)価格の処理
  • 消費税の複合処理
  • 営業税としての費用処理
  • 税抜経理方式の自動仕訳処理 など…

 

多通貨対応

◆170を超える世界中の通貨が登録済み。レート登録を行えば、すぐに外貨取引が行える。

◆複数のレート登録が可能。

◆仕訳データには会計通貨(機能通貨)と取引通貨の2種類の通貨情報を保持する。

  ※会計通貨(機能通貨)は会計基準毎に設定が可能。

 

配賦

 iDempiereには費用などを予め設定してある割合に応じて配賦する機能があります。機能的にはシンプルな機能ですが、この機能をもとにカスタマイズする事により、ユーザー企業の要件にあった配賦機能を作ることができます。

 

ワークフロー

 iDempiereのワークフローエンジンを活用し、振替伝票に承認のワークフローを構築する事もできます。

基本的な自動仕訳

販売管理と債権管理の基本的な伝票の結びつきと自動仕訳

購買管理と債務管理の基本的な伝票の結びつきと自動仕訳

在庫管理の基本的な自動仕訳

自動仕訳に含める事ができる多次元分析レポート情報

 iDempiereでは、仕訳のデータを使用して色々と分析できるように(多次元分析レポート)のため、各種伝票から起票される自動仕訳に色々な情報を含める事ができます。例えば、売上請求伝票では、初期設定として、組織、取引組織、取引先、プロジェクト、キャンペーン、アクティビティ、品目などの情報を自動仕訳に含める事ができるようになっています。

売上請求伝票の例
売上請求伝票の例
仕訳イメージ
仕訳イメージ

自動仕訳に含める事ができる情報

 iDempiereでは、組織、取引組織、取引先、プロジェクト、キャンペーン、アクティビティ、品目などあらかじめ決められた分析情報を自動仕訳に含められる他、ユーザー定義の情報を2つまで自動仕訳に含める事ができます。

 iDempiereの自動仕訳に含められる情報は次の情報です。

  • 組織
  • 取引組織
  • 品目
  • 取引先
  • プロジェクト
  • キャンペーン
  • アクティビティ
  • 販売地域
  • 送り元(From)
  • 送り先(To)
  • 保管場所
  • ユーザー定義1
  • ユーアー定義2
  • 仕訳カテゴリ
  • 税金情報
  • 数量単位
  • 数量

在庫の評価方法と売上原価の計算

 多くのERPの大きな特徴のひとつにリアルタイムで利益を表示する事が挙げられています。利益をリアルタイムで表示するためには、売上原価をリアルタイムで計算する必要があります。伝統的な会計処理では期末に棚卸を行い期末の在庫評価額を決定し、期首の在庫金額と当期の仕入金額から期末の在庫金額を引いて、売上原価を計算します。そのためERPによるリアルタイムな売上原価の計算と、伝票的な売上原価の算出方法には、その処理方法に大きな違いがある事をはじめに認識する必要があります。

iDempiereの在庫の評価方法(リアルタイム在庫評価)

  iDempiereの在庫評価方法には、先入れ先出し(FIFO)、後入れ先出し(LIFO)、平均発注単価、平均請求単価、最終発注単価、最終請求単価、標準原価が用意されています。標準原価は任意の金額を設定できますが、それ以外の在庫評価方法はiDempiereが自動計算します。

 そして、在庫の評価金額(≒売上原価)は、クライアント、組織、バッチ/ロットのどのレベルで保持するのか選択する事ができます。

 在庫評価の方法と評価レベルの設定は基本方針としては会計スキーマに設定します。会計スキーマに設定されているのは、あくまでも基本方針として、品目カテゴリ毎に在庫評価方法と評価レベルを変更する事もできます。

【注意】リアルタイムに在庫評価(≒売上原価)を計算するのは非常に複雑です。

  iDempiereには標準機能で7種類の在庫評価方法があり、3種類の在庫評価レベルがあります。合わせると21通りの在庫評価の計算となります。そして、在庫管理はとてもイレギュラーが多い業務のひとつです。例えば、システム的に在庫が0であっても、倉庫に1つだけ実物があり、出荷するような事があるかもしれません。それらのイレギュラー処理も含めて、矛盾なくリアルタイムに在庫評価を行い、すべてのユーザー企業の要望に応えるのは非常に困難です。そのため、iDempiereの標準機能を活用し在庫評価を行う場合には、事前にユーザー企業の期待通りの動作をするか充分に検証(テスト)する事をオススメします。

 

JPiereの在庫の評価方法(期末在庫評価)

 リアルタイムに在庫評価(≒売上原価)の計算を正しく行うのはとても大変です。そこでJPiereでは、在庫評価を在庫数が確定した月末、期末に行うようにしています。期中の取引は標準原価で売上原価を計上し、期末において在庫評価を行い、売上原価を修正します。

 月末/期末において確定した在庫数量と完成している各種伝票の取引のデータをもとに、在庫評価を行いますので、イレギュラー対応の複雑性を排除し、在庫評価の計算を行う事ができます。

 この方法のデメリットは、期中に算出される利益は管理会計としての速報値であり、期末に法令を遵守した財務会計値に修正しているという事です。しかし、デメリットとはいっても、もともと利益は決算整理仕訳により確定するものです。決算整理仕訳により利益の変動がある事は普通の事ですし、リアルタイムで在庫評価をしていても、在庫の評価損の計上などはやはり決算時に行うのが一般的でしょう。人為的に設定した標準原価と、期末に計算した在庫評価金額が大きくかい離していて、利益に与える影響が大きくなる事が心配かもしれませんが、JPiereの期末在庫評価では、期末に評価した金額を”標準原価”に上書きする機能も提供していますので、標準原価が実際の在庫評価金額と大きくかい離する事はありません。そのため、標準原価の金額と、期末に評価した在庫金額に多少の差はあっても、利益に与える影響は軽微にする事ができます。

 標準原価をいちいち入力するのが面倒に思うかもしれません。iDempiereでは最初の発注時の単価で標準原価を自動設定する機能があります。これを活用すれば、入力の手間を軽減するだけでなく、初期の標準原価と実際の在庫評価金額のかい離も防ぐ事ができます。

 JPiereでは期末において在庫を評価する事により、期中の利益は管理会計としての正確性を担保しつつ、期末の在庫評価に柔軟性を持たせ、 ”素早く”、”低コスト”で導入する事ができます。

◆JPiereの期末在庫評価方法の種類

  JPiereの在庫評価方法は、デフォルトとして上記の6種類の方法を用意しています。しかしこれらの方法はあくまでも初期値として、プラグインで簡単に計算処理ロジックを差し替える事もできます。 詳しくは下記のコンテンツを参照して下さい。

JPiereドキュメント-会計管理概要

JPiereの会計管理に関連するカスタマイズ

【補足説明】iDempiere & JPiere を活用したい方&学びたい方へ

 iDempiereとJPiereはオープンソースのため、ソースコードを読んだり、インターネットに散見される情報を拾い集めて学習する事は可能ですが、それには膨大な時間と労力が必要です。そして、独学ではなかなか全体像が把握できず、木を見て森を見ず"という状態に陥りやすくiDempiereとJPiereを正しく理解し活用する事は困難でしょう。

 そこでJPiereの母体となっている、iDempiereをよりよく知ってもらい上手に活用して欲しいという思いから、オープンソースのERP iDempiere(アイデンピエレ)を体系的に学べるトレーニング講座を用意していいます。iDempiereのトレーニングを受講して頂く事で、効率よくiDempiereを学ぶ事ができ、不用意なトラブルを未然に防ぐ事にもつながります。